
「うちの決算書で、ファクタリングの審査は通るのだろうか…」
経営者や財務担当者の方であれば、一度はそんな不安を抱えたことがあるかもしれません。
こんにちは。
元信販会社で25年間、与信審査の責任者を務めておりました佐野と申します。
リーマン・ショックの時代から、数えきれないほどの中小企業の決算書と向き合い、「数字の向こう側にある経営者の想い」に触れてきました。
ファクタリングの審査において、財務3表(BS・PL・CF)がチェックされるのは事実です。
しかし、どこをどう見られているのか、どうすれば通過率を上げられるのか、その具体的なポイントを知る方は多くありません。
この記事では、長年審査の現場にいた私の視点から、ファクタリング審査で担当者が本当に見ている財務諸表のポイントと、今日から着手できる具体的な改善策を徹底解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたは審査担当者の視点を理解し、自信を持ってファクタリングの申し込みに臨めるようになっているはずです。
目次
結論:通過率を決めるのは「BSの流動性」と「PLの利益率」
いきなり結論から申し上げます。
ファクタリング審査の通過率を大きく左右する財務指標は、突き詰めれば2つです。
- BS(貸借対照表)の「流動性」:会社の短期的な支払い能力
- PL(損益計算書)の「利益率」:本業で稼ぐ力
この2点です。
もちろん、他にも見るべき点は多々ありますが、審査担当者がまず真っ先に確認するのが、この2つの健全性なのです。
なぜこの2点が最優先で見られるのか──審査室のリアル
なぜなら、ファクタリング会社にとってのリスクは2つあるからです。
1つは「売掛先が倒産して、売掛金が回収不能になるリスク」。
そしてもう1つが「申込企業が契約後に倒産し、連絡がつかなくなるリスク」です。
BSの流動性が低ければ、資金繰りが悪化し、倒産リスクが高いと判断されます。
PLの利益率が低ければ、そもそも事業の継続性に疑問符が付きます。
私たちは、数字の向こうにある事業の将来性を見ています。
この2つの指標は、その将来性を測るための、いわば「会社の健康診断」の基本項目なのです。
ファクタリング審査が注目する財務3表の「ここ」
それでは、具体的に財務3表のどこが、どのようにチェックされているのかを解説します。
難しい金融用語も、かみ砕いて説明しますのでご安心ください。
BS(貸借対照表):流動比率・自己資本比率・売掛金の質
BSは、会社の財産状況を示す「健康診断書」です。
特に以下の3点に注目が集まります。
- 流動比率(%)= 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
- 1年以内に現金化できる資産(流動資産)が、1年以内に返済すべき負債(流動負債)をどれだけ上回っているかを示す指標です。会社の短期的な支払い能力そのものを表し、最低でも100%以上が望ましいラインです。
- 自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ 総資産 × 100
- 会社の総資産のうち、返済不要の自己資本がどれくらいの割合を占めるかを示す指標です。これが高いほど、借金に頼らない安定した経営と判断されます。
- 売掛金の質
- 計上されている売掛金の中に、長期間回収できていない「滞留債権」や、回収不能な「不良債権」が含まれていないかを確認します。
PL(損益計算書):営業利益率・販管費の伸び・一過性損益の有無
PLは、会社がどれだけ儲けたかを示す「成績表」です。
赤字か黒字かはもちろんですが、その「中身」が問われます。
- 営業利益率
- 本業でどれだけ効率よく利益を上げているかを示す最重要指標です。たとえ売上が大きくても、営業利益が赤字であれば「儲からない事業」と見なされる可能性があります。
- 販管費の伸び
- 売上の伸び以上に、人件費や広告宣伝費などの販管費が急増していないかを見ます。事業拡大に伴う投資なら良いのですが、非効率なコスト増はマイナス評価につながります。
- 一過性損益の有無
- 最終利益が赤字でも、その原因が役員退職金の支払いなどの「特別損失」のように、一時的な要因であれば、審査担当者はその事情を考慮します。
CF(キャッシュフロー計算書):営業CF/投資CFのバランスと資金繰り安定度
CF計算書は、会社のリアルな現金の動きを示す「家計簿」です。
BSやPLが黒字でも、現金がなければ会社は倒産します(黒字倒産)。
- 営業キャッシュフロー
- 本業でどれだけ現金を生み出せているかを示します。ここがプラスであることが、健全な事業運営の大前提です。
- 投資キャッシュフローとのバランス
- 事業拡大のために設備投資(投資CFがマイナス)をし、その結果として営業CFが伸びている、という形が理想的なバランスです。
BS改善法:流動性と安全性を高める4つの手立て
では、どうすればBSを改善できるのでしょうか。
ここでは即効性のある4つのアクションプランをご紹介します。
- 売掛金の回収サイクル短縮
請求書の発行を月末締めから15日締めに変更する、支払いサイトの短い取引先を増やすなど、売掛金を1日でも早く現金化する工夫が重要です。これが最も効果的な流動性改善策です。 - 在庫圧縮と棚卸資産の質的改善
倉庫に眠る不要な在庫は、会社の現金を寝かせているのと同じです。定期的に棚卸を行い、セール販売などで現金化しましょう。在庫が減れば、その分BSがスリムになります。 - 過大な固定資産のスリム化とリース活用
ほとんど使っていない機械や、事業に関係のない土地・建物はありませんか? 遊休資産を売却すれば、借入金の返済原資や運転資金になり、BSが一気に健全化します。高額な設備は購入ではなくリースに切り替えるのも有効です。 - 資本政策で自己資本を厚くする方法
経営者個人からの借入金がある場合、それを資本金に振り替える「デット・エクイティ・スワップ(DES)」という手法があります。これにより負債が減り、自己資本が増えるため、自己資本比率が劇的に改善することがあります。
PL改善法:利益率を健全化するステップ
PLの改善は、事業の根本的な収益力アップにつながります。
一朝一夕にはいきませんが、着実に取り組みましょう。
コスト構造の可視化──固定費と変動費の見分け方
まずは自社の費用を2種類に分解することから始めます。
- 固定費:売上の増減に関わらず一定にかかる費用(家賃、正社員人件費など)
- 変動費:売上の増減に比例してかかる費用(原材料費、仕入原価、外注費など)
この仕分けを行うことで、どこに無駄があり、どこを削減すべきかが見えてきます。
粗利率を底上げする価格戦略と付加価値提案
粗利(売上総利益)は、すべての利益の源泉です。
安易な値下げ競争から脱却し、サービスの品質向上や手厚いサポートといった「付加価値」で勝負できないか検討しましょう。
それが結果的に、健全な利益率につながります。
“赤字でも通る”ケーススタディ──熱気と数字の両立
私が審査を担当していた頃、こんな会社がありました。
ソフトウェア開発を手掛けるA社。
PLは先行投資で赤字でしたが、BSの自己資本は厚く、キャッシュフローも潤沢でした。
何より、社長が持参した事業計画書には、開発中の新技術への熱意と、3年後までの詳細な黒字化ロードマップが、これでもかというほど書き込まれていたのです。
私たちは、その「熱気」と「計画の具体性」を評価し、ファクタリング契約を締結しました。
数字は過去の結果ですが、事業計画は未来への意思表示です。
赤字という事実だけで諦めず、その理由と今後の展望を合理的に説明できれば、審査担当者は必ず耳を傾けます。
まとめ
最後に、この記事の最も重要なポイントを振り返ります。
ファクタリング審査を通過するために、まず意識すべきは2つです。
- 最重要ポイントの再確認:BSの流動性+PLの利益率
- BSの流動比率を改善し、短期的な支払い能力を示す。
- PLの営業利益を確保し、本業で稼ぐ力を証明する。
- 審査担当者を味方にする情報開示のコツ
- 決算書の数字が悪くても、その背景や今後の改善策を自分の言葉で説明することが重要です。
- 審査は「落とすためのもの」ではありません。「会社の未来を共に考えるパートナー」を見つける場だと考えてください。
- 今日からできる1アクション:回収サイトの見直しと利益率分析
- まずは、自社の売掛金の回収に平均何日かかっているかを確認してみましょう。
- そして、商品・サービスごとの利益率を分析し、本当に儲かっているのはどれかを見極めてください。
その小さな一歩が、あなたの会社の資金繰りを大きく変えるきっかけになるはずです。
あなたの会社が、資金調達の壁を乗り越え、力強く成長していくことを心から応援しています。