
信販会社で25年間、与信審査の現場にいた私が、ファクタリング審査の「本当のところ」をお話しします。
多くの経営者様が「審査」と聞くと身構えてしまいますが、決して難しいものではありません。
むしろ、審査とはファクタリング会社との最初の「対話」の場です。
この記事では、審査がどのような流れで進み、担当者がどのポイントを見ているのかを、図解を交えながら徹底的に解説します。
「数字の向こうにいる人」を見てきた私だからこそ語れる、審査通過のための本質的なポイントをお伝えしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
あなたの事業を正しく理解してもらえれば、審査は必ず味方になります。
目次
【結論】ファクタリング審査は「売掛先の信用力」と「取引の信憑性」が9割
私が審査の現場で繰り返し見てきた結論から申し上げます。
ファクタリングの審査で最も重要なのは、申込者であるあなたの会社の状況よりも、「売掛先の信用力」と「取引の信憑性」です。
この2つが全体の9割を占めると言っても過言ではありません。
なぜ申込者の経営状況より「売掛先」が重要なのか?
銀行融資の審査に苦労された経験がある方ほど、この点に驚かれるかもしれません。
融資は申込者の返済能力を審査しますが、ファクタリングは根本的に異なります。
ファクタリングは「融資」ではなく「債権の売買契約」です。
この「債権の売買契約」というファクタリングの仕組みや、融資との違い、メリット・デメリットといった基礎知識について、より深く理解したい方は「ファクタリングとは?気になる仕組みやメリット・デメリットを解説」の記事で網羅的に解説されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
ファクタリング会社にとってのリスクは、あなたがお金を返せるかではなく、「売却された売掛金が、期日通りに売掛先から支払われるか」という一点に集約されます。
そのため、たとえあなたの会社が赤字決算や税金滞納といった状況でも、売掛先が大企業や官公庁で支払い能力に全く問題がなければ、審査を通過できる可能性は十分にあるのです。
「取引の信憑性」とは何か?審査担当者はここを見る
「売掛先の信用が高いなら、請求書さえあれば大丈夫」と考えるのは早計です。
我々審査担当者が次に重視するのが、その請求書が指し示す取引の「信憑性」、つまり「本当に存在する、正当な取引か?」という点です。
残念ながら、架空の請求書で資金を調達しようとするケースも存在するため、担当者は慎重に裏付けを確認します。
- 過去の取引履歴(通帳の入金実績など)
- 取引基本契約書や発注書
- 納品書や検収書
これらの書類を通じて、その取引が単発のものではなく、継続的かつ安定的に行われている「本物の取引」であることを証明する必要があります。
【事例で学ぶ】元審査責任者が語る、審査通過・否決を分けた3つのケース
私が実際に見てきた事例を基に、審査のリアルな判断軸を3つのケースでご紹介します。
ケース1:赤字決算でも通過できた建設業A社の事例
申込者であるA社は、大型案件の先行投資が重なり、直近の決算は赤字でした。
しかし、売掛先は誰もが知る大手ゼネコン。
さらに、提出された通帳には、過去数年間にわたり、そのゼネコンから毎月安定した入金があったことが明確に記録されていました。
結果は「通過」。A社の財務状況は苦しくとも、売掛先の圧倒的な信用力と、長年の取引実績という信憑性が高く評価された典型的な例です。
ケース2:新規取引で否決となったITベンチャーB社の事例
B社の売掛先は、急成長中の優良上場企業でした。
これだけ見れば何の問題もなさそうですが、結果は「否決」。
なぜなら、それがB社にとって初めての取引であり、過去の入金実績を示すことができなかったからです。
請求書と発注書はありましたが、審査担当者からすると「この取引が本当に履行され、期日通りに支払われるか」という確証が持てなかったのです。
ケース3:資料準備と誠実な対応で信頼を得た個人事業主Cさんの事例
個人事業主のCさんは、法人に比べて信用面で不利になりがちです。
最初の申し込みでは、ファクタリング会社から取引内容について多くの質問を受けました。
しかしCさんは、すべての質問に迅速かつ丁寧に回答し、求められた追加資料もすぐに提出しました。
その誠実な姿勢が「この経営者は信頼できる」という評価に繋がり、まずは少額から取引を開始。
その後、問題なくやり取りが完了したことで信頼関係が築かれ、今ではCさんの重要な資金調達手段の一つになっています。
【元審査責任者が図解】ファクタリング審査の全フローと期間
ファクタリングの審査は、驚くほどスピーディーに進みます。
特にオンライン完結型のサービスが増え、手続きのハードルは大きく下がりました。
STEP1:申し込み〜ヒアリング(最短10分〜)
Webサイトのフォームや電話で申し込みます。
この段階で担当者は、事業概要や資金使途、希望金額といった基本的な情報を確認し、案件の全体像を把握します。
STEP2:必要書類の提出
審査の根幹となるステップです。なぜその書類が必要なのか、我々審査担当者の視点で解説します。
必要書類 | 審査担当者はここを見る! |
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身分証明書、登記簿謄本/開業届 | 申込者が実在し、事業を営んでいるかを確認します。 |
請求書、発注書、契約書 | 売掛債権が「いつ、誰に、いくら」発生したのか、その存在と内容を正確に把握します。 |
通帳のコピー(入出金明細) | 最重要書類の一つ。売掛先からの過去の入金実績を確認し、取引の継続性・信憑性を裏付けます。 |
決算書/確定申告書 | 申込者の事業規模に対して、売掛金の金額が妥当か(不自然に高額でないか)といったバランスを確認します。 |
STEP3:本審査(最短30分〜)
提出された書類に基づき、本格的な審査が行われます。
ファクタリング会社は、独自のデータベースや外部の調査会社を利用して売掛先の信用情報を調査します。
同時に、提出された書類間の整合性(請求額と入金額が一致しているかなど)を精査し、取引の信憑性を最終判断します。
AI審査を導入している会社では、このプロセスがさらに高速化されています。
STEP4:契約・入金(最短即日〜)
審査を通過すれば、契約手続きです。
現在は電子契約システムを利用したオンライン完結型が主流で、来社不要で手続きが完了し、指定口座へ入金されます。
審査の核心!判定を左右する5つの重要ポイント
フローを理解した上で、審査の通過率を上げるために押さえるべき5つの核心的ポイントを解説します。
ポイント1:売掛先の信用力
言うまでもありませんが、これが最も重要です。
上場企業や官公庁、誰もが知る優良企業が売掛先であれば、評価は非常に高くなります。
逆に、設立間もない企業や、経営不振が噂される企業、あるいは個人事業主が売掛先の場合は、慎重な判断とならざるを得ません。
ポイント2:売掛金の支払期日までの期間(サイト)
支払期日までの期間(サイト)は、短いほど審査に有利です。
期間が長くなるほど、その間に売掛先が倒産するなどの未回収リスクが高まるからです。
一般的に、支払いサイトが2ヶ月(60日)を超えると審査が厳しくなる傾向があります。
ポイント3:売掛先との取引実績
新規の取引よりも、過去に何度も期日通りに入金されている継続的な取引の方が、圧倒的に信用されます。
通帳のコピーなどで安定した入金実績を示すことが、何よりの証明になります。
ポイント4:提出書類の正確性と一貫性
これは「基本中の基本」ですが、意外と軽視されがちです。
請求書、契約書、通帳の入金額といった情報に矛盾や誤記があると、単純なミスであっても「何かを隠しているのでは?」と審査担当者に不要な疑念を抱かせる原因となります。
提出前には必ず再確認してください。
ポイント5:経営者の「姿勢」と「説明能力」
書類だけでは伝わらない部分も、我々は見ています。
ヒアリングの際の受け答えがしっかりしているか、自社の事業内容や今回の取引について分かりやすく説明できるか。
こうした「この経営者は信頼できるか」という定性的な評価も、実は最終的な判断を後押しする重要な要素なのです。
よくある質問(FAQ)
Q: 赤字決算や税金滞納があっても審査に通りますか?
A: はい、可能性は十分にあります。 ファクタリングは融資ではないため、申込者の財務状況よりも売掛先の信用力が重視されます。ただし、ファクタリング会社への心証としてマイナスに働く可能性はあるため、状況を正直に説明することが重要です。
Q: 個人事業主やフリーランスは審査で不利になりますか?
A: 法人に比べて事業実態の把握が難しい面があるため、審査が慎重になる傾向はあります。 しかし、近年は個人事業主専門のファクタリングサービスも増えており、安定した取引実績を示せれば問題なく利用可能です。
Q: 審査に落ちる一番多い理由は何ですか?
A: 最も多いのは「売掛先の信用力不足」と「取引の信憑性が確認できない」ケースです。 具体的には、売掛先が設立直後であったり、過去の入金実績が確認できない新規取引などが挙げられます。
Q: 審査が甘いファクタリング会社はありますか?
A: 「審査が甘い」と明言する会社は健全ではありません。 しかし、手数料の上限が高めに設定されている会社や、必要書類が少ないオンライン完結型の会社は、リスク許容度が高く、比較的柔軟な審査を行う傾向があります。
Q: 複数のファクタリング会社に同時に申し込んでも良いですか?
A: 問題ありません。 相見積もりを取ることで、より手数料が安く、条件の良い会社を選ぶことができます。 むしろ、自社にとって最適な条件を見つけるために推奨される行為です。
Q: オンライン審査のメリット・デメリットは何ですか?
A: メリットは、手続きが圧倒的にスピーディーで、場所を選ばずに申し込める点です。デメリットは、AIなどによる機械的な審査が中心となるため、書類に現れない事業の強みや経営者の熱意といった「定性的な要素」が評価されにくい点です。
Q: 必要な書類が少ないと、なぜ審査に通りにくいのですか?
A: ファクタリング会社から見ると、判断材料が少ないためリスクの高い取引と見なさざるを得ません。 そのため、手数料が高くなったり、審査が慎重になったりする傾向があります。逆に言えば、しっかり書類を揃えることで、より有利な条件を引き出せる可能性が高まります。
まとめ
ここまで、ファクタリング審査のフローと、元審査責任者の視点からの判定ポイントを解説してきました。
最後に、最も重要なことをリストでまとめます。
- 1. 信用力の高い売掛先の債権を選ぶこと
- 2. その取引が本物であることを客観的な資料で証明すること
- 3. 審査担当者からの質問には誠実に対応すること
審査は、あなたを落とすためのものではありません。
あなたの事業と取引先を正しく理解し、ファクタリング会社が安心して債権を買い取るための、ごく自然なプロセスです。
この記事を参考に、自信を持って準備を進めてください。
正しい知識と誠実な対応があれば、ファクタリングはあなたの会社の経営を支える、本当に力強い味方になります。
資金調達にお困りの際は、有効な選択肢の一つとして、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。