審査の裏側を語るファクタリング現場通信

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N=1,000社分析で判明!審査落ち企業に共通する5つのNGパターン

「なぜうちの会社が審査に落ちるのか分からない」

そんな経営者の声を、私は25年間の与信審査の現場で数えきれないほど聞いてきました。

信販会社で与信審査部門の責任者として1,000社を超える法人向け融資やファクタリング案件に携わってきた私、佐野英嗣が断言します。

審査落ちの大半は「避けられるミス」によるものです。

本記事では、私が現場で実際に目にしてきた審査落ち企業の共通パターンを、具体的なデータと実例を交えて解説します。

この記事を読むことで得られるメリット:

  • 審査担当者が本当に重視するポイントが分かる
  • 自社の「見落としがちな弱点」を発見できる
  • 審査通過率を飛躍的に向上させる具体策を習得できる

決算書の数字だけでは見えない、審査の「本当の落とし穴」をお伝えしていきます。

NGパターン①:数字だけで語ろうとする

「売上好調なのになぜ?」の落とし穴

リーマン・ショック後の中小企業再生支援に携わった際、忘れられない案件がありました。

年商3億円の製造業で、売上は前年比120%の成長を記録していました。

決算書の数字だけ見れば、誰もが「優良企業」と判断するでしょう。

ところが、社長との面談で「なぜこれほど売上が伸びたのですか?」と質問したところ、明確な答えが返ってきませんでした。

「たまたま大口受注があって…」「運が良かっただけで…」

結果として、この案件は見送りとなりました。

数字の裏にある「なぜ」を説明できない企業の特徴:

  • 売上増加の具体的要因を語れない
  • 市場環境の変化への対応策が不明確
  • 今後の事業戦略に一貫性がない
  • キャッシュフロー改善の施策が具体化されていない

資金繰り表やキャッシュフローの”死角”

決算書で黒字を計上していても、実際の資金繰りが苦しい企業は珍しくありません。

特に成長企業によく見られるのが、売上拡大に伴う運転資金の増加に対応できていないケースです。

私が審査を担当した建設業の事例では、受注増加により表面的な業績は向上していましたが、材料費の前払いや人件費の増加により、実際のキャッシュフローは悪化していました[1]。

「説明できる経営者」と「説明できない経営者」の差は、こうした数字の背景にある経営判断を論理的に語れるかどうかにあります。

審査担当者が本当に知りたいのは、「その数字がなぜ生まれたのか」「今後どう継続・改善していくのか」という経営者の考察力なのです。

NGパターン②:自己資本が少なすぎる

業界平均を知らずに勝負していませんか?

自己資本比率について、多くの経営者が業界水準を把握せずに審査に臨んでいます。

これは非常にもったいないことです。

業界別自己資本比率の目安(中小企業):

  • 製造業:24.9%
  • 卸売業:18.8%
  • 建設業:24.8%
  • 情報通信業:50%以上
  • 宿泊・飲食サービス業:-2.4%(※債務超過の企業が多い)[2]

私の審査経験では、自己資本比率が業界平均を大きく下回る企業は、その理由を明確に説明できれば審査通過の可能性があります。

一方で、「自己資本比率が低いのは当たり前」と考えている経営者の企業は、多くの場合で見送りとなっています。

隠れ負債に見られる”警戒シグナル”

決算書に現れない隠れ負債は、審査担当者が最も警戒する要素の一つです。

特に以下のような状況は、詳細な調査対象となります:

審査で注意深く調べられる隠れ負債の兆候:

  • 役員借入金の急激な増加
  • 関連会社との不透明な取引
  • リース債務の過度な依存
  • 偶発債務(保証債務等)の存在
  • 税務申告と決算書の数値に乖離

ある卸売業の審査では、決算書上の借入金は適正水準でしたが、実際には代表者個人が会社の債務を肩代わりしている状況が判明しました。

このような「隠れ債務」は、企業の真の財務状況を歪めるため、審査通過を困難にします。

借入依存が強すぎる企業の共通傾向

自己資本比率が極端に低い企業には、経営面での共通した課題が見受けられます。

設備投資の判断が場当たり的で、長期的な事業計画に基づいていないケースが多いのです。

また、売上拡大のための借入を繰り返すものの、収益性の改善に結びついていない企業も少なくありません。

私が担当した機械製造業では、過去5年間で借入金が3倍に増加していましたが、営業利益率は逆に低下していました。

「成長のための投資」と「無計画な拡大」の違いを、数字の推移と経営者の説明から見極めることが、審査担当者の重要な仕事なのです。

NGパターン③:情報開示が消極的

決算書提出の「遅れ」が示すもの

「決算書の準備に時間がかかっていて…」

この言葉を聞くたびに、私は内心で警戒レベルを上げていました。

決算書の提出遅延は、単なる事務処理の問題ではありません。

企業の内部管理体制の甘さを示唆する重要なシグナルなのです。

決算書提出が遅れる企業の背景にある問題:

  • 月次決算体制が整っていない
  • 経理担当者のスキル不足
  • 経営者の数字に対する関心の低さ
  • 税理士との連携不足
  • システム化の遅れ

私が審査を担当した運送業の事例では、決算書の提出が3ヶ月遅れました。

理由を確認すると、月次で売上や経費を把握する仕組みがなく、期末になって慌てて集計していることが判明しました。

このような企業は、日常的な経営判断も「勘」に頼っている可能性が高く、リスクが大きいと判断せざるを得ません。

取引履歴や受注実績を出し渋る心理

「取引先の情報は企業秘密なので…」

確かに、取引先の情報は重要な企業秘密です。

しかし、審査に必要な範囲での情報開示を過度に嫌がる企業には、しばしば隠したい事情があります。

与信審査では、主要取引先の信用力が申込企業の安定性を大きく左右します[3]。

特に売上の大部分を特定の取引先に依存している場合、その取引先の経営状況は審査の重要な判断材料となります。

情報開示に積極的な企業と消極的な企業の差:

項目積極的な企業消極的な企業
取引先情報主要取引先の概要を説明「企業秘密」で開示拒否
受注状況今後の受注見込みを具体的に説明「見通しが立たない」で回答拒否
課題への対応問題点と対策を率直に説明問題の存在自体を否定
質問への回答即座に具体的な回答「後日回答」を多用

開示姿勢が「信頼度」のバロメーターになる理由

情報開示への姿勢は、経営者の人格や企業文化を映し出す鏡のようなものです。

透明性の高い経営を心がけている企業の経営者は、審査においても率直で具体的な説明をしてくれます。

一方で、都合の悪い情報を隠そうとする姿勢が見える企業は、取引開始後にも同様の問題が発生するリスクが高いと判断されます。

私の経験では、情報開示に積極的な企業ほど、実際の取引においてもトラブルが少なく、長期的に良好な関係を築けています。

審査は「お互いの信頼関係の構築」という側面もあるのです。

NGパターン④:経営者の説明力に課題あり

面談で問われるのは「数字の意味づけ」

「売上が下がったのは、コロナの影響です」

このような説明で終わってしまう経営者と出会うことがあります。

確かに、コロナ禍は多くの企業に影響を与えました。

しかし、審査担当者が知りたいのは「その後どう対応したか」「今後どう改善していくか」という具体的な戦略です。

説明力の高い経営者の特徴:

  • 数字の変化の背景を論理的に説明できる
  • 課題に対する具体的な対策を持っている
  • 市場環境の変化を客観視できている
  • 自社の強み・弱みを正確に把握している
  • 将来のビジョンを具体的に語れる

ある製造業の社長は、コロナ禍による売上減少について次のように説明してくれました。

「主力の飲食店向け設備の需要が激減しましたが、在宅勤務用の小型設備に技術転用しました。

現在は売上の30%がこの新分野で、来期には50%まで拡大する計画です。

設備投資も完了し、人員も確保できています」

このような具体的で前向きな説明ができる経営者の企業は、審査においても高く評価されます。

審査担当が重視する”経営者の一言”

25年間の審査経験の中で、私は多くの経営者と面談してきました。

その中で印象に残っているのは、困難な状況でも諦めずに挑戦し続ける経営者の姿勢です。

「数字の向こうに人がいる」

これが私の審査における信条ですが、特に経営者の人間性や企業に対する想いは、数字だけでは測れない重要な要素です。

ある建設業の社長は、リーマン・ショック後の厳しい状況について、こう語ってくれました。

「確かに売上は半分になりました。

でも、この機会に社員のスキルアップに投資し、省エネ住宅の技術を身につけました。

今では同業他社にはない強みとなっています」

この一言から、逆境を成長の機会に変える経営者の資質を感じ取ることができました。

プレゼン資料より「現場エピソード」が効く

立派なプレゼン資料を用意してくる企業もありますが、審査担当者が本当に知りたいのは、現場で起きている生の情報です。

効果的な説明のポイント:

  • 具体的な顧客からの声
  • 現場で起きた改善事例
  • 社員の成長エピソード
  • 地域社会との関わり
  • 同業他社との差別化要因

私が印象深く覚えているのは、ある清掃業の社長の話です。

「うちの清掃スタッフが、お客様の落とし物を毎月20件以上お届けしています。

この丁寧さが評価され、契約継続率は98%を維持しています」

このような現場に根ざしたエピソードは、企業の真の競争力を物語っています。

数字では表現できない企業文化や顧客との関係性こそが、持続的な成長の源泉なのです。

NGパターン⑤:再三の修正が必要な書類

記載ミス・フォーマット違反が生む”不信感”

「申請書類に記載ミスがありました。修正版をお送りします」

このような連絡を受けることは珍しくありませんが、修正が3回、4回と続く場合、審査担当者の心象は確実に悪化します。

書類の正確性は、企業の事務処理能力を示すバロメーターだからです。

書類不備が多い企業の共通点:

  • 社内でのチェック体制が不十分
  • 担当者のスキルが不足している
  • 期限に追われて準備を急いでいる
  • 経営者が細部に関心を示さない
  • システム化が遅れている

私が審査した小売業では、決算書の数字と申請書の数字が一致せず、原因を確認したところ、経理担当者が手計算で転記していることが判明しました。

このような基本的なミスは、企業の内部統制に対する信頼を大きく損ないます。

書類作成の外注依存は要注意

「税理士に任せているので、詳細は分かりません」

このような回答をする経営者に出会うことがあります。

確かに、専門家に依頼することは合理的です。

しかし、自社の数字について最低限の理解もない状況では、審査担当者は不安を感じざるを得ません。

外部専門家に依存しすぎている企業では、以下のような問題が発生しがちです:

🔸 経営者が自社の財務状況を正確に把握していない 🔸 月次での業績管理ができていない 🔸 問題発生時の対応が遅れる 🔸 戦略的な経営判断ができない

「正確で丁寧」は最大の信用構築ツール

一方で、書類が完璧に整備されている企業は、それだけで高い評価を受けます。

正確で読みやすい書類は、企業の誠実さと能力を雄弁に物語るからです。

私が審査を担当した中で、最も印象に残っているのは、ある運送業の提出書類でした。

決算書はもちろん、補足資料として事業計画書、月次推移表、主要取引先一覧まで、必要な情報がすべて整理されていました。

さらに、各数字について簡潔な説明文が添えられており、審査担当者の疑問に先回りして答える配慮がありました。

優秀な企業の書類作成術:

  • 必要書類を漏れなく準備
  • 数字の整合性を事前確認
  • 読み手の立場に立った構成
  • 補足説明を適切に配置
  • 期限を守った提出

このような丁寧な書類作成は、企業の信頼性を大幅に向上させます。

「細部にまで気を配れる企業は、取引においても信頼できる」

これが、多くの審査担当者に共通する考え方なのです。

審査落ちを回避するために:企業が取るべき対策

与信は敵ではない。誠実な情報提供の重要性

25年間の審査経験を通じて、私が最も伝えたいのは「審査は敵ではない」ということです。

審査担当者は、企業の成長を妨げるために存在するのではありません。

むしろ、健全な取引関係を築き、双方にとってメリットのあるビジネスを実現するために、リスクを適切に評価しているのです。

誠実な情報提供は、この目的を達成するための最も重要な要素です。

隠し事や曖昧な説明は、かえって審査を困難にし、本来なら通過できたはずの案件も見送りになってしまいます。

誠実な情報提供のメリット:

  • 審査期間の短縮
  • 条件面での優遇
  • 長期的な信頼関係の構築
  • 将来の融資機会の拡大
  • トラブル発生時のサポート

自社の”見せ方”を磨く3つの視点

多くの企業は、自社の強みを適切にアピールできていません。

優れた技術や実績を持ちながら、それを審査担当者に伝える術を知らないのです。

効果的な自社アピールの3つの視点:

1. 数字だけでなく「ストーリー」で語る

売上や利益の数字だけでなく、それがどのような努力や工夫によって生まれたかを説明します。

顧客からの評価、社員の成長、技術革新など、数字の背景にある物語こそが、企業の真の価値を伝えます。

2. 課題を隠さず「対策」で勝負する

完璧な企業は存在しません。

重要なのは、課題を認識し、それに対する具体的な対策を持っていることです。

問題を隠そうとするのではなく、改善への取り組みを積極的にアピールしましょう。

3. 将来性を「根拠」とともに示す

「今後成長します」という言葉だけでは説得力がありません。

市場分析、競合状況、投資計画など、成長の根拠となる具体的な情報を整理して提示することが重要です。

「審査通過」はゴールではなくスタート

最後に、審査通過は新たなビジネス関係のスタートにすぎないことを忘れてはいけません。

取引開始後も誠実な関係を維持し、約束を守り続けることで、さらなる信頼を築いていくことができます。

私が長年の審査経験で出会った優良企業の多くは、最初の審査通過後も継続的に情報を提供し、相談相手として審査担当者を活用していました。

「審査は味方になる」という考え方を持つことで、単なる資金調達を超えた、真のビジネスパートナーシップを構築することが可能になるのです。

まとめ

25年間で1,000社を超える企業を審査してきた経験から、審査落ちの大半は「避けられるNGパターン」によるものであることをお伝えしてきました。

審査落ちを回避するための5つのポイント:

  1. 数字の背景を論理的に説明できる準備をする
  2. 業界平均を把握し、自己資本比率の改善に取り組む
  3. 情報開示に積極的な姿勢を示す
  4. 経営者自身の説明力を磨く
  5. 書類作成の正確性と丁寧さを徹底する

これらのNGパターンは、気づけるかどうかが分かれ道です。

審査担当者の視点に立って自社を客観視することで、改善の余地は必ず見えてきます。

私の信条である「数字の向こうに人がいる」審査を通じて、多くの企業が成長していく姿を見てきました。

「審査は味方」という考え方を武器に、より良いビジネス関係を築いていただけることを心から願っています。

企業の持続的な成長と、健全な取引環境の実現。

それこそが、審査担当者と企業が共に目指すべき目標なのです。


参考文献

[1] 与信審査とは?評価基準と与信限度額の決め方、通らない原因と対策を解説 | クラウド会計ソフト マネーフォワード

[2] 自己資本比率とは?計算方法や業種別の目安、注意点などを解説 – 経理お役立ち情報 – 弥生株式会社【公式】

[3] 1.中小企業の自己資本比率|商工業実態基本調査|経済産業省